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「王妃の館」は名言こそ多いけど映画化するほどの名作ではなく、大プッシュされていることに浅田次郎ファンが悶絶中

王妃の館 [DVD]

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これは大変なことやと思うよ。

よりにもよってあんな微妙な作品がプッシュされてしまうのは御大のファンとして悲しい。

不遇のエース道尾秀介先生が判定厳しい審判のせいでツースリーになって仕方なく置きにいった6球目で見逃し三振(直木賞)とれてしまって超微妙な作品が「直木賞受賞作!」として書店で山積みにされてしまった時と同じじゃないか。
少なくともミチオファンの書店員は死んだ蟹の目で泡吹きながらPOP書いてたと思う。違うんだ、ミチオ先生にはもっと面白い作品がたくさんあるんだ。龍とかカラスとかラットとか違う動物の。

ただでさえしくじり先生のパンクブーブーさんが仰っていたように
“日本人は『あれグランプリらしいけど個人的には面白いと思わなかったな』『二位のやつの方が好きだったな』と言いたがる国民性”
なんだから、浅田次郎は永遠の0とか王妃の館とか話題になってるけど俺はイマイチ良さが分からないな~的な原作レビューが中央総武線の車内で聞こえてきてしまう。(※御大の作品は永遠の0ではなく終わらざる夏です)

こないだ本拠地のバーで気心知れたチーフと「宮部みゆきの作品ってなんか頭に入ってこないよね」っていう話をしてたのが悪かったのであれば大変申し訳ないと思っています。まさに因果応報っちゅうやつだよ。

※なお、本記事に記すのは浅田次郎作品をこよなく愛する一人のファンの個人的な意見です。一応。

王妃の館 = 代表作「プリズンホテル」を女性向けにマイルドにした、イマイチ個性が光ってない作品


浅田次郎御大の作風を「泣ける作品」「美しい作品」だとするのは、Janne Da Arc の代表曲が「月光花」だといってしまうのと同じレベルでファンを刺激します。

そもそも、浅田次郎作品というのはですね、

良いところ:

  • あくまで気楽に読める娯楽小説をベースにしながら、文学的で美しいフレーズを簡潔に挟んでくる
  • (前略)、泣こうと思えば泣けるベタな展開を用意してくれる
  • ギャグのセンスがハマる人にとってはちょう面白い

悪いところ:

  • クドい
  • 寒い
  • プロットが雑

という感じです。

泣けるは泣けるんですが、よくも悪くも B 級な感じ、高級懐石やフレンチのフルコースではなくジャンクフード的な感じなのです。

上記のような御大の個性が最も凝縮されたのが「プリズンホテル」という名作であり、御大自身も「他の作品より優先的にアレを読んでほしい」と知り合いに語っていたそうなのです。

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プリズンホテルが今すぐ藤原竜也主演で映画化すべき泣けて笑える寒くてクドい名作であることは間違いないのですが、これはもういろんなアレがあって規制社会の現代ではまず日の目を見られないのです。(※20世紀にドラマ化されてますがその時でさえ大幅に設定が変更されています)

王妃の館という小説は、そんなプリズンホテルと同様、ほろりとする場面あり、笑える(?)場面もありのドタバタ系コメディです。 女性誌に連載されていたこともあり、プリズンホテルから「男の生き様」と「女性への(性的)暴力」を全てカットして、「女性の生き様」と「子供の成長物語」で補填したのが王妃の館です。

…なんということでしょう。

多くの人を虜にして、また同時に多くの人を不快にさせてきたケッ作「プリズンホテル」が、御大らしさは感じられつつも妙にマイルドでエレガントな作品へと生まれ変わりました。

自分が男だからおすすめできないだけでは…とも思うけど御大が毒気を抑えてしまうとギャグの切れ味も鈍るし、その分プロットの雑さも気になってくるし、なんか御大のドタバタ系長編にしては相対的に出来が良くないと思うんすよね。個人の感想ですが。

ファンの感想としては、王妃の館(原作)は名言集的な感じで読むのがおすすめ

王妃の館に関しては女性ウケを狙いまくってるから、女性が読むと決めゼリフとか含め結構ハマるのかもしれないです。短編でいうシエ(短篇集「姫椿」収録)とかは女性ウケ狙って実際に支持されてる気がするし。

映画版でどこまで再現されるかはわかりませんが、原作中には名台詞が数多くあります。一部抜粋するなら

「幸福になる秘訣はただひとつ、自分は幸福だと信じることよ」

とか

「世の中そんなに甘かないわよ。どうせ狐と狸ばかりの、欺(だま)しっこだらけの世の中なんだから、払ったお金の分だけは自分で楽しまなきゃならない。欺されたって、最後はありがとうって言えるように生きなきゃいけない」

「わかってるわ、貫ちゃん。はなっから欺すつもりの恋なんてあるわけないの。いつか別れる日がくれば、きっとすったもんだの末に憎み合う。欺されたって思う。それが男と女よ。でも私は、もう二度とそんなみじめな思いはしたくない。だからあなたといる一瞬を、心から大切にしています。思いっきり楽しんで、心の底から感謝をして、あなたの後ろ姿にも、寝顔にも、いつもありがとうって言ってます。ずっとそうしていれば、いつか別れるときもきっと、ありがとうって言えるから」

とかですかね。

個人的には

「私の生き方。一瞬を大切にすること。未来を望まない。過去にこだわらない。自分が今あるこの一瞬を、握った宝石のように大切にすること。ただそれだけよ」

が好きです。

全然違う作品だけど、御大が書かれた人生訓めいたものでいうと

自己主張のできない女は損よ。大人の女なら必ずしも自己主張をする必要はない。でも、自己表現はしなくちゃだめ。主張は権利だけど、表現は義務。

そのあたりをはきちがえると、上司に誤解されたり、部下に嫌われたり、同僚にうとまれたりする。実力も努力も正当に評価されない。

も印象的。

こういうので若い女性にも人気が出てくると御大ファンとして嬉しいとは思うけどプリズンホテル読むとちょう不快な思いをしそうだからそれがジレンマですね。

王妃の館をきっかけに他の作品に触れて、浅田次郎ファンになってくれたらいいなぁ

僕は小説家ではなく Web ライター、というかライターでもなく Web 編集者の類ですが、御大のギャグとか文章のテンポとかはパクりたくてしょうがないと常々思っています。ブログ記事やとスターンの「トリストラム・シャンディ」みたいな感じかもしれんけどな。

ということで、映画観て原作読んだ上で☆1つのレビューをする方が出てくるのは避けられないと思いますが、その一方で御大に興味を持ってくれる方が出てくるならええことよ。僕のように浅田次郎作品における名言集を自分でクリップするような熱心なファンが増えればいいと思う。そしてみんなで SNS でシェアすればいいと思う。

とりあえず御大の長編に毎回出てくるインテリクソ野郎の「ハッハッハッ」と「ゲェッ!」のテンションだけは映画版でも再現してくれることを期待してます。

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ちなみにプリズンホテルも一言レビューしておくと、

1巻(夏):とにかく面白い。

2巻(秋):とにかく美しい。

3巻(冬):春まで耐え忍びましょう。

4巻(春):あぁ、まぁ、ここまで読んできてのクライマックスとしてならいい終わり方だろうな。

って感じです。2巻まで読めば十分だとは思いますが、そこまで読んだなら最終回は結構泣けるかも。